2025/7/19, Hiizu Nakanishi

スリンキー・コイルの落下運動

シミュレーション速度: 1.00
散逸パラメータ: $\gamma =$ 30
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スリンキー・コイルは、 バネ定数が小さくて、また自然長がほとんどゼロのバネだ。

その一端を手で持って静かにぶら下げると、バネ定数が小さいので長く伸びる。 全体が静止するまで待った後、手を離すとコイルは落下するが、 下端は上端が落ちてくるまで静止したままだ。 下端だけを見ていると、上端が落ちてくるまでは何事も起こらず、 コイルが落下しているとは思えない。

バネの上端はすでに支えられていないのに、 下端はそれに “ 気づかず ” すぐに落ちてゆかないのは、 「トムとジェリー」のアニメによく出てくるシーンに似ていて、 不思議な印象を与える。

しかし、これは以下のように考えると自然なことだ。 このバネを吊したままその上端を上下に素早く動かすと その衝撃がバネに沿って伝わってゆくが、 その影響の伝わる速さはこのバネの中を伝わる波(疎密波)の速さに等しい。 スリンキー・コイルのバネ定数は小さいのでコイルの中を伝わる波の速さは遅い。 手を離したときにバネの上端が落ちてくる速さも、 基本的にはこの波の伝播速度と同程度だが、それよりも若干速い。そのため、 バネの上端が落ちてくるまで上端が離されたことによる影響が伝わってこず、 それまで下端は何事もなかったかのようにそのままの状態を保つ。

このシミュレーターは、 運動方程式を数値積分して、 上端をつるしたスリンキー・コイルの落下運動をシミュレーションする。 落下の様子を詳しく観察したいときには、 「シミュレーション速度」のスライダーによって、 シミュレーションの速さを遅くできる。

表示の「重心の高さ」ボタンをチェックすると、 緑の球が現れ、コイルの重心の高さを示す。 コイルの重心は一定加速度で落下する。 しかし、コイルの上端は、最初、重心よりもずっと速い速度で落下し、 時間が経つにつれてむしろ減速していることがわかる。

パルスの伝播」ボタンをチェックすると、 上端をつるされたもう一つの青いコイルが表示される。 「スタート」ボタンで中央のコイルが落下するのと同時に、 右のコイルの上端に撃力が加わり、その衝撃がどのように伝わってゆくかを、 コイルの色が黄色に変わることで示している。右のコイルは、 撃力が加わった後も上端が同じ場所につるされたままだ。

2つのコイルの様子を見比べることにより、 初期の中央のコイルの上端の落下速度と、 右のコイル中を伝わるの撃力の影響の伝播速度が同じであることがわかる (ノート参照)。 右のコイルに示された衝撃の伝播速度は、 下方に伝播するに従いおそくなってゆくが、 これは下方ではコイルの張力が小さくその伸びが減少するためである。 他方、落下コイルの上端の落下速度も遅くなってゆくが、 その減速の程度は緩やかで、 撃力の影響がコイルの下端に達っする前に、 落下コイルの上端が下端に達っしてしまうことが分かる。 つまり、コイルの下端には、上端が落ちてくるまで、 上端が落下を始めた影響が及ばないのだ。

計算に用いたモデル:

自然長がゼロでバネ定数が$K$、質量が$M$のバネを$N$分割して、 リングで表示している。上端を固定した静止状態から、 上端を離して落下する様子をシミュレーションする。 実際のスリンキー・コイルは、 バネが縮んだ際にコイル内で非弾性衝突が生じて合体し、 コイルの合体した部分が一体となって落下してゆく。 しかし、滑らかなバネの運動と 速度が不連続に変化する非弾性衝突を同時にシミュレーションするのは難しいので、 伸びが負の値のときにバネの復元力を指数関数的に増大させるとともに パラメータ$\gamma$で速度に比例した散逸を導入して、 不連続な非弾性衝突を近似的に実現している。

散逸パラメータ$\gamma$をゼロとするとコイルの衝突が弾性的にな り、力学的エネルギーが保存する。一方、 コイル間の距離が負になったときの大きな復元力のために疎密波の速度が 速くなり、上端の落下の影響が上端の落下速度より速く伝わっている様子が 観測される。