シミュレーション速度: 1.00 | 散逸パラメータ: $\gamma =$ 30 |
スリンキー・コイルは、
バネ定数が小さく自然長がほとんどゼロのバネだ。
その一端を手で持って静かにぶら下げると、バネ定数が小さいので長く伸びる。 全体が静止するまで待った後、手を離すとコイルは落下するが、 下端は上端が落ちてくるまで静止したままだ。 下端だけを見ていると、上端が落ちてくるまでは何事も起こらず、 コイルが落下しているとは思えない。 バネの上端はすでに支えられていないのに、 下端はそれに “ 気づかず ” すぐに落ちてゆかないのは、 「トムとジェリー」のアニメによく出てくるシーンに似ていて、 不思議な印象を与える。 しかし、これは以下のように考えると自然なことだ。このバネを吊したまま その上端を上下に素早く動かすとその衝撃がバネに沿って伝わってゆくが、そ の影響の伝わる速さはこのバネの中を伝わる波(疎密波)の速さに等しい。ス リンキー・コイルのバネ定数は小さいのでコイルの中を伝わる波の速さは遅 く、手を離したときにバネの上端が落ちてくる速さよりも遅いのだ。そのた め、バネの上端が落ちてくるまで上端が離されたことによる影響が伝わって こず、それまで下端は何事もなかったかのようにそのままの状態を保つ。 このシミュレーターは、 運動方程式を数値積分して、上端をつるしたスリンキー・コイルの落 下運動をシミュレーションする。 落下の様子を詳しく観察したいときには、 「シミュレーション速度」のスライダーによって、 シミュレーションの速さを遅くできる。 表示の「重心の高さ」ボタンをチェックすると、緑 の球が現れ、コイルの重心の高さを示す。 コイルの重心は一定加速度で落下する。 しかし、コイルの上端は、最初、それよりもずっと速い速度で落下し、 時間が経つにつれてむしろ減速していることがわかる。 「パルスの伝播」ボタンをチェックすると、上端をつるされたもう一 つの青いコイルが表示され、「スタート」ボタンで中央のコイルが落 下するのと同時に、右のコイルの上端に撃力が加わり、その衝撃がどのように 伝わってゆくかを、コイルの色が黄色に変わることで示している。右のコイル は、撃力が加わった後も上端が同じ場所につるされたままだ。 2つのコイルの様子を見比べることにより、 初期の中央のコイルの上端の落下速度と、 右のコイル中を伝わるの撃力の影響の伝播速度が同じであることがわかる (ノート参照)。 衝撃の伝播速度は、下方に伝播するに従いおそくなってゆくが、 これは下方ではコイルの張力が減少するためであろう。 一方、落下コイルの上端の速度も遅くなってゆくが、 その減速の程度は緩やかで、落下コイルの上端が下端に達するほうが、 右のコイルで撃力の影響がコイルの下端に達っするより前であることが分かる。 つまり、コイルの下端には、上端が落ちてくるまで、 上端が落下を始めた影響が及ばないのだ。 計算に用いたモデル:自然長がゼロでバネ定数が$K$、質量が$M$のバネを$N$分割して、リングで表 示している。上端を固定 した静止状態から、上端を離して落下する様子をシミュレーションする。 実際のスリンキー・コイルは、バネが縮んだ際にコイル内で非弾性衝突が生じ て合体し、 コイルの合体した部分が一体となって落下してゆく。しかし、滑らかなバネの運動と 速度が不連続に変化する非弾性衝突を同時にシミュレーションするのは難しいので、 伸びが負の値のときにバネの復元力を指数関数的に増大させるとともに パラメータ$\gamma$で速度に比例した散逸を導入して、 非弾性衝突を実効的に実現している。散逸パラメータ$\gamma$をゼロとするとコイルの衝突が弾性的にな り、力学的エネルギーが保存する。一方、 コイル間の距離が負になったときの大きな復元力のために疎密波の速度が 速くなり、上端の落下の影響が上端の落下速度より速く伝わっている様子が 観測される。 |