速さ: 100 |
開き角: $\theta$ = 80度 |
交差点: $L_1/L$ = 0.35 |
主慣性モーメント: $I_X =$ $ML^2$ $I_Y =$ $ML^2$ $I_Z =$ $ML^2$ |
Youtubeの " 宇宙飛行士と考える「回転運動の不思議」"では、 この複雑な運動の説明として 「ペンチが2つの回転軸の周りを同時に回転している」ためとしている(5分 30秒あたり)。しかしこの表現では、ペンチの運動は 「2つの回転運動の重ね合わせとして記述できる」 と主張しているかのようで、それは正しくはない。 物体の回転運動は、いつも一つの軸の回りの回転として表されるが、 その回転軸が絶えず時間変化しているのである。 ある軸回りの回転が特に不安定で、 その軸の回りに物体を回転させても安定せず、 回転軸が時間とともに大きく変化するのである。
このシミュレーターの初期設定では、その動力学的に不安定な軸は 左右方向の軸(剛体に固定された座標系の$X$軸、 Youtubeの動画では上下方向の軸)で、 回転の角速度ベクトルが時間変化して $+X$ 軸方向になったり $-X$ 軸方向になったりする。 ペンチはその度に左右方向に(Youtubeでは上下方向)向きを変え、 外から見た回転は、軸が揺らぎながらも大体同じ向きに回っている。
不安定な回転軸は3つの主慣性モーメントの大きさの順序で決まっており、 それは開き角や交差点の位置を変えると変わる。 このウェブシミュレーターで、実際、 主慣性モーメントが2番目の軸の回りの回転が不安定であるのが確かめられる。
このウェブシミュレーターでは、
表示のボタンで、剛体固定座標系のXYZ軸、剛体の慣性楕円体等の表示のOn-Offを
切り替えられる。
小さな白球は重心位置、
赤の矢印は角運動量に比例したベクトル $\vec L\,\big(\sqrt{2K}/L^2\big)$、
黄の矢印は角速度に比例したベクトル $\vec\omega/\sqrt{2K}$ をそれぞれ表す
($K$は回転運動エネルギー)。
$\vec L$ は一定だが、$\vec\omega$ は時間変化していることが分かる。
楕円体のメッシュは慣性楕円体、 平面のメッシュは角運動量ベクトルに垂直で慣性楕円体に接する平面 (不変平面と呼ばれる)を表す。 慣性楕円体は運動エネルギー一定の曲面を表しており、 角速度ベクトル $\vec\omega$ は慣性楕円体上を移動する。 慣性楕円体は回転する剛体に固定されて剛体とともに回転するが、 不変平面は動かない。
慣性楕円体と不変平面は、角速度ベクトルが慣性楕円体と交わる点 (シミュレーターでは黄色の矢印の先)で接し、 剛体の回転運動は、慣性楕円体が不変平面上を滑らずに転がる運動 として表される。 この接点の慣性楕円体上の軌跡を黄色い曲線、 不変平面上の軌跡を緑の曲線で表している。 黄色の軌跡は単純な閉曲線をなすことから、一見複雑な剛体の回転運動も、 転がる慣性楕円体上の周期運動として表されることが分かる。 しかし、楕円体上の運動の周期と楕円体の転がる周期とは一般には整合しないので、 緑の曲線は閉曲線とはならず環状部分を埋め尽くし、全体の運動は周期的ではない。 (このシミュレーターでは有限時間間隔の軌跡のみを表示しているので、 緑の軌跡の長さは有限で、環状部分を完全には埋め尽くさない。)