UNESCO
Paris, 29 August 1968

科学論文のアブストラクトについての
        UNESCOのガイドライン

1960年代に入って科学論文の出版が爆発的に増加し、専門分野に限ったとしても、 出版された論文をすべて読むことなど誰にもできなくなってしまった。 そのような状況の下でも、 世界中の研究者たちが原著論文を通して正確でかつ迅速に情報交換できるよう、 UNESCOは1968年に科学論文の形式についてガイドラインを出した。

その中で特に重要な点は、 すべての科学論文にアブストラクト(著者抄録)をつける ように勧告したことである。

それ以前の科学論文にはアブストラクトは必ずしもついていなかったが、 UNESCOの勧告以来、ほぼすべての科学論文にアブストラクトがつけられるように なった。

以下に、「科学論文のアブストラクト」はどのようなものでなければならないか、 UNESCOの勧告に従ってまとめる。

[参考文献] UNESCO, 1969, "Guide for the preparation of scientific papers for publication"

一般的注意

  1. 論文の中で最もよく読まれるのはアブストラクトで、 大多数の読者はアブストラクトしか読まない。
  2. アブストラクトには以下の3つの目的がある。
    1. 専門分野の研究者に、本文を読むべきかどうかの判断材料を与えること。
    2. 周辺分野の研究者に、本文を読まなくてもその内容がわかるよう、 できるだけ多くの具体的情報を与えること。
    3. タイトルとアブストラクト(および書誌情報) だけを集めて、有用なデータベースを構築できるようにすること。

アブストラクトの内容

  1. アブストラクトには、本文の内容と結論を、 簡潔でかつ具体的に要約しなければならない。 論文に記述されている主要な新しい情報について 全て言及しなければならなず、逆に、 本文に含まれていない情報や主張を含んではいけない。 また、本質的でない詳細な記述を含んではいけない。
  2. アブストラクトは、自己完結的、即ち、 それだけで理解できるように書かれていなければならない。
  3. 情報はできるだけ具体的に書く。 例えば、数値的結果が得られた場合は、 単に結果が得られたというだけではなく、得られた数値も含めるのが望ましい。
  4. 新しい情報とは、観測や実験で得られた事実、理論的考察による帰結、 新しい取り扱いまたは新しい装置による方法などである。
  5. 新しい結果を述べる場合には、 それを得るのに使った方法にも言及すべきである。 新しい方法を記述する場合には、その方法の基本原理、適用範囲、 その方法によって得られる結果の精度などについて言及すべきである。
  6. 曲解や誤解をされないように、十分注意を払わなければならない。 特に、結論や主張にはその有効範囲を明示すべきである。 すでに得られている以前の結果との比較は具体的に述べるべきである。

アブストラクトの形式

  1. つながった一連の文からなる文章で記述し、箇条書きリストとしない。
  2. 本文への参照を含んではいけない。
  3. 他の文献の参照は避ける。 やむを得ない場合には、標準的な形式で文献の書誌情報を明示すること。 本文の文献表を引用してはいけない。
  4. これらの条件を満たしつつ、 できる限り簡潔に書かなければならない。